朝の散歩中は雲が厚かったが、陽が射すに連れて天気が回復してきた。今日も秋晴れになりそうだ。
気持ちの良い気候なので、またウッドデッキに出てベンチに座る。横には黒猫の歩が座り、毛繕いしている。七海は鳥の声を目で追い、小さな虫を追うのに夢中だ。
私といえば、YouTubeが自動的に作ってくれたプレイリストを聴きながらコーヒーを飲み、このテキストを書いている。
こういう些細なこと、ちょっとしたことが幸せなのだ。
YouTubeの選曲もなかなかだ。今朝の気分に合っている。何が流れているかというと…
- 茶木みやこ「まぼろしの人」
- 山下達郎「さよなら夏の日」
- 村下孝蔵「初恋」
- 大滝詠一「君は天然色」
- 大滝詠一「A面で恋をして」
- 大野雄二「愛のバラード」
- 竹内まりや「家に帰ろう(マイ・スイート・ホーム)」
- 大野雄二「ルパン三世のテーマ」
- Hi-Fi Set「中央フリーウェイ」
……
まだまだ続く。何と雑食の私に向いた選曲だろう。聴いているだけで次々と記憶が蘇ってくる。
いくつかは昔ラジオやテレビで聞いたことがある。曲は知っていても題名もアーティストも分からないものもある。
私は芸能界に全く興味がなかったので、歌謡曲をほとんど知らない。アニメや映画は観ていたから、「犬神家の一族」や「ルパン三世」のテーマ曲は分かる。古谷一行版の金田一耕助シリーズのテーマソングが流れてきた時は、懐かしさのあまり涙が出そうになった。
横溝正史は小学校の時、ハマった。
江戸川乱歩の少年探偵団シリーズとアルセーヌ・ルパンシリーズ、シャーロック・ホームズシリーズを読破して、読むものが無くなって、読み始めたのが角川文庫の横溝正史だった。今考えると子供が読むものではないような気もするが、全部読んだ。
記憶は小説だけで無く、映画やテレビについても蘇ってくる。
いろいろな俳優が金田一耕助を演じたが、一番はやはり古谷一行だろう。デリカシーのないところとか、フケがリアルなところとか、原作に最も近いのではないだろうか。
いや、原作の金田一耕助の狂気を最も忠実に演じたのは、NHKの「獄門島」で主演した長谷川博己だろう。彼の金田一を観てから、私にとって歴代ベストは彼になった。
ここまでこのテキストを書いていたら、また横溝正史を全部読みたくなってきた。確か、Amazonプライムで読み放題になっていたような気がする。全集も持っているが、古本なのであまり気軽に読めないのだ。
読み返すなら、やはり『犬神家の一族』か、それとも『獄門島』、いや私が小説を書くきっかけになった『本陣殺人事件』か。
そうだ、私は『本陣殺人事件』を読んで、初めて小説を書きたい、と思ったのだった。
『本陣殺人事件』は、新婚初夜の夫婦の惨殺という血なまぐさい、いかにも旧弊に満ちた殺人事件が題材になっている。しかし、実は全てが綿密に計算され、合理的に計画された犯罪だった。
それを一見茫洋とした知性のかけらも無く見える薄汚い小男が、論理的に、客観的に真相を暴いていく。そのプロセスが何とも魅力的で、その金田一耕助の姿に憧れて、私は小説を書いてみたいと思ったのだ。
秋の朝の、何気ない猫とのひと時が、私に小学校5年生の頃のことを思い出させた。金田一耕助が好きで好きで、祖父のマントを持ち出し、下駄を履いて学校に通ったこと。頭を洗わずフケを撒き散らしていたこと。
そして何よりも、私が創作に憧れ、小説を書き始めた日のことを。
学校で余った茶色い藁半紙をもらってきて、文庫本の大きさに切ってホチキスで製本し、細かい字で書いたのが私の初めての小説だった。
自分と友人をモデルにしたバディものの探偵小説だった。学校で起きるちょっとした謎を2人で解いていく。基本的に掌編に近い短編だったが、好きな子をヒロインにして長編も書いた。
勝手に学級文庫の棚に置いたが、結構評判は良かった。
朝ウッドデッキに座ったときにはすっかり忘れていたことだ。記憶というのは何をきっかけに甦るのか分からない。
だから物を書くということはやめられない。書くことで自分の中にある知らない自分、忘れていた自分に会うことができるのだ。
今日私は、あの頃の憧れと、ロマンに50年ぶりに再会できた。しっかりとここに書いておいて、今後のモチベーションの糧にしておきたい。
コメント