今朝、目が覚めてすぐにAppleのWWDC基調講演を再生しました。わたしはいつも、Appleの発表を「デザインと道具の哲学のアップデート」として見ています。派手な技術革新や刺激的なワードに踊らされるよりも、「Appleが次にどんな“静けさ”を選んだか」に耳を澄ませているのです。
2025年のWWDCは、まさにその「静けさの革命」でした。主役は3つ——UIの統合、iPadOSの進化、そしてApple Intelligenceの開放です。
「Liquid Glass」という皮膚
まず目を奪われたのは、全デバイスに導入される新しいデザイン「Liquid Glass」。このガラスのような半透明UIは、単なる見た目の刷新ではありません。デバイスごとにバラついていた「肌ざわり」が、ようやく一枚の皮膚になったと言えます。
たとえばiPhoneのロック画面とMacのデスクトップ、iPadのウィジェットエリアがすべて同じ光の屈折をまとい、操作の一貫性をもたらします。まるで「どのデバイスを触っても自分の世界にいる」という安心感。これはAppleが初代iPhoneからずっと追い求めていた「道具の感触の統一」に一歩近づいた瞬間だったと思います。
iPad miniが「書ける」ようになった日
個人的に最も驚いたのは、iPadOS 26のウィンドウ管理機能がついにiPad miniでも使えるようになったことです。
これまでは一般的には「読むためのiPad」「観るためのiPad」としての地位に甘んじていたiPad mini(わたしは執筆にも活用していますが)。しかし今回のアップデートで、複数ウィンドウを自由に開き、リサイズし、場合によっては外部ディスプレイに出力して作業することまで可能になりました(A17 Pro搭載の第7世代以降の対応のようです)。
わたしのような物書きにとって、軽くて鞄に入れっぱなしにできるiPad miniが、ついに『移動できる書斎」に進化したということです。この変化は小さく見えて、実に大きいと思います。
Apple Intelligenceと「閉じた自由」
そしてもうひとつ、大きな静かな変革がありました。Appleがついに、自社製のオンデバイスLLM(大規模言語モデル)を、外部アプリ開発者に公開しました。
この意味は大きいです。つまり、あらゆるiPhone/iPadアプリが、ChatGPTのようなAI機能を「クラウドを使わずに」「プライバシーを保持したまま」搭載できるようになります。
Appleは既にOpenAIのChatGPTとの連携を発表しましたが、他の外部LLM(Google Geminiなど)への対応はまだ見送られています。つまり、自由すぎる選択肢を避け、「制御されたAI体験」を選んだということなのだと思います。
わたしはこれを、「閉じた自由」と呼びたいです。自由は無限に開かれているよりも、信頼できる枠の中にこそ成立します。Appleは、そのことを誰よりもよく知っているのではないでしょうか。いかにもTim Cookらしい戦略です。
未来は音もなく変わっていく
今回のWWDCに派手な新製品はありませんでした。Siriの刷新も、やや遅れているようです。しかし、道具の質感は確実に変わりました。Apple製品に触れる時間は、いつの間にか「AIを使う時間」ではなく、「AIと暮らす時間」に変わっていくでしょう。
わたしは今朝の講演を見終えて、ふとiPad miniを手に取り、その上でウィンドウを開いてみました。そのとき、何かが静かに始まった気がしたのです。
コメント