昨日まで鹿児島に出張していました。ある専門商社を訪れ、AI導入について議論しました。打合せには、社長と営業責任者、技術責任者に参加いただきました。
社長は40代後半。脂の乗ったエネルギッシュな方でした。最初はAIについて基本的な内容やユースケースを話していましたが、社長の表情から内容を切り替えることにしました。社長は既にAIのことを十分理解していると感じたのです。
そこで私は、最近考えていた新しいアプローチを試すことにしました。「AIは今までのデジタルツールとは異なります。AIは優秀な中途採用の人間だと考えてください。どんなに優秀な人材でも、入社当初は教育が必要であり、社内情報も職務に応じて提供しますよね。AIもそれと同じです」
その瞬間、社長は口を開き怒涛のように語り始めました。社長自身の中長期的な戦略、具体的な数字目標、それを達成する上での最大の障害について話されたのです。
私は驚きました。普段、サービスの提案では物売りや機能売りを避け、まずお客様のビジネス状況や課題を明確にし、その解決策としてソリューションを提示し、ROIを示して合意を得るようにしています。しかし通常、お客様は私たちを単なるベンダーとみなし、会社の戦略や数字などの重要情報を話すことは稀です。そのため、これらを聞き出すことが営業やソリューションエンジニアの腕の見せ所でもあります。
今回は私の問いかけが思わぬきっかけとなり、社長自らが深い議論を始めました。その結果、私たちは具体的なソリューションを提案し、最終的に合意に至りました。
商談が成功した喜びもありましたが、鹿児島からの帰りの新幹線で私が深く考えていたのは別のことでした。社長は、自社の最大のボトルネックが人材であることを述べていました。都市部に住む私たちが想像する以上に、地方における人手不足は深刻なのです。社長の強い言葉から、都市圏では感じられない地方の現実を改めて認識しました。
また、先日訪れた福岡の山間部でAIに関するワークショップを行った際にも、社員の方々にAIへの危惧や抵抗感よりも、希望や期待があることを感じました。その根底には、鹿児島での社長の話と同様に、地方の人材不足という共通の課題があるのではないかと思います。
地方企業がAIに期待を寄せる理由は明白です。高齢化が進み、人口減少が深刻化する中で絶対的な労働力不足があるからです。地方経済は都市ほど活発ではありませんが、地域社会を維持するために必要なビジネスは存在します。また、若年層が都市部へ流出し続ける構造的な問題も無視できません。現在、日本で人口が増えているのは東京、大阪、福岡だけとされており、地方の人口減少は深刻です。
こうした状況下で地方企業がAI導入に期待するのは当然のことであり、過重労働で疲弊する社員がAIによる負荷軽減に期待を寄せるのも自然な流れでしょう。
これまでのDX推進は都会から地方へという流れが一般的でしたが、AIに関しては地方のニーズがより切実であるため、都市より早く普及が進む可能性があります。地方のリアルなニーズが迅速に具体的な活用事例を生み出し、その成功事例が都市部にフィードバックされることで、新たな普及モデルが生まれる可能性もあります。
実は、地方企業にはAI導入における独自のメリットが三つあります。一つ目は、地域特有の課題に柔軟に対応できることです。従来型のDXが一般化や規格化を目指すのに対し、AIは個別対応や例外対応に強く、地方企業の多様で個別的なニーズに適しています。
二つ目は、小規模だからこそ実験的な導入や迅速な修正が可能で、成功事例を迅速に構築できることです。
三つ目は、地方経済の規模が小さいため、AI導入の成果が地域社会に与える影響が大きく、目に見える成果を生み出しやすいことです。
AI導入は地方から進めるべきだと考えます。地方発のAI普及が新たな社会モデルを生み出す可能性があり、私たち都市部に住む者も地方の現実を直視し、学び、解決策を提供することが重要です。
私は数年前にアメリカ本社を相手にする仕事をやめました。政治や権力闘争の中で仕事をするよりも、地方企業や地域社会に貢献する方が精神的にも有意義だと感じたからです。AI時代を迎え、地方にAIを普及させ、当たり前に使える社会を目指し、地方が豊かになる未来を築いていきたいと強く願っています。
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