昨日夕食を食べているときに、相方が何気なく「歩ももう8歳だよ。人間でいうと50代」と言った。
私は顔には出さなかったが少なからず衝撃を受けた。
歩は私が大分にいたときに、東京で保護猫活動をしている知り合いの方から写真を見せてもらって、どうしても家に来てほしくて、譲ってもらった黒猫だ。オスで、当時はまだ子猫だった。多摩川の河原で捨てられていたのを拾ってきたらしい。
あの子猫が、もう50歳? 子猫の時によちよちと歩いていた姿や、少し大きくなってからテレビの大画面に映されているサッカーの試合のボールを追いかける姿がありありと蘇ってきた。
初めて大分の家に来たときのことを今でも覚えている。物怖じせず、ずいずいと家の奥に上がり込んで、一番良い場所を確保していた。そのあとを先住猫の五輝が追って、歩の尻を舐めていたことを思い出す。
歩は私の黒猫だ。だから、彼も私から離れない。
書斎で仕事をしているといつも足元にいる。気を付けないと、椅子の脚で踏んでしまう。私が仕事に熱中していると鳴き声を上げ、撫でろと横になる。
歩の前にいた三毛猫の喜与、茶トラ白の五輝はもう亡くなっていない。
喜与は気性の激しい孤高の雌猫だったが、それでも時々私の机の上に来て、キーボードの上で昼寝をしていた。仕事を中断された私は、手の上に喜与の温かさを感じながら、彼女が去るまでそのままの姿でいた。
五輝は優しい雄猫で、他の猫たちの面倒をよく見ていた。人間の感情を一番読む猫で、私が仕事に疲れたり落ち込んだりしているときに、リビングのソファに座っていると、必ず横に来て腹を撫でろと催促する。白い綺麗なお腹を出して寝そべるのだ。
先日、町田で70歳の女性が買い物帰りに刺されて亡くなった。
死は、予告なしに来る。
歩も、いつか。私も、いつか。
相方の「もう8歳だよ。人間でいうと50代」という言葉は、そのことを思い出させた。
喜与も五輝も、いつかその時が来ると分かっていた。
でも町田の女性は、その朝、自分が帰らないとは思っていなかったはずだ。
歩も、私も、明日は保証されていない。
だからこそ、私は足元で鳴く歩を抱き上げる。抱き上げて身体の上に置く。歩は私の顔を舐めて、私の腹の上で毛繕いをし、居眠りを始める。
歩よ。君の体は重い。いつの間にこんなに大きくなってしまったのか。しかし、その重さが、今ここに君がある証だ。
君が私の上で眠る。この重さと温かさを、私は決して忘れない。
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