静かだ。
雨が降っている。時折雷も混じり、激しく降る。
今は小康状態なのか、雨音よりも虫の音の方が良く聞こえる。
萩2日目。
5時に起きたときは激しい雷雨だったので、散歩は控えた。天気予報を見ると夕方から雨は止み、天候は回復に向かうようだ。散歩は夕方にすることにした。
いつもは散歩をしているこの時間、何もすることがなくて、ただ机に向かってキーボードを叩いている。
窓は開け放っており、雨を十分に吸った草木の匂いが流れ込んでくる。気温は25℃。湿気は高いが蒸し暑いわけではない。
時間が過ぎていく音が聞こえるようだ。こんな時間を味わえるのは、萩ならではだと思う。
福岡にいるときは、別に何者からも急かされているわけではないのに、心が急く。
萩では何も私に干渉するものが無い。猫もここには居ない。干渉してくるものがあるとすると、時の流れだけだ。
日常の空間の中に仕掛けられたタイムマシーンに、乗るつもりは無いのに乗ってしまった感覚。自分はいま、確かに令和の時代に居るのだろうか。もしかしたら、家という私の領域だけが令和で、その外は革命前夜の幕末なのかも知れない。
ふと顔を上げて窓の外を見ると、髷を結った和装の男たちがこちらを見たような気がした。
時間は有限で、逆さまに流れることは無い。しかし、私の時間は逆さまに流れているようだ。悠久の時の流れを彷徨い、次元を超えてもう一つの時間の流れを見つけたような気がした。
経験したことが無いのに経験したような気がする。見たことが無いのに見たことがあるような気がする。会ったことが無いはずなのに、会ったような気がする。
いつかどこかで、この人生とは異なる別の物語の中で、もう一人の私が送ってきた人生。それを今、私は追体験しているのかも知れない。