小説執筆のプロセスの中で、個人的に一番困っているのは原稿消失リスクとバージョン管理の煩雑さです。もちろん内容をどうするかが最も大事な課題ですが、その次に重要なのがこの2つだと思います。
書くことに集中していると、保存することを忘れます。大量にテキストを書いたのに、保存をしていなかったためにそれを失ったことは皆さんもあると思います。最近ではWordなどのアプリでも自動保存機能が付いているので、ほぼ問題なくなりましたが、そうなると、今度はバージョン管理が重要になってきます。
自動保存されると、やっぱりこの表現はやめよう、と思ったときに既にその部分が保存されていて、以前のものが復旧できないこともあります。書いているものと失わないようにすることと、確定したものだけを保存したいという相反した要求があるわけです。
アプリによっては自動保存は仮保存、確定したいものだけを正式保存として保存してくれるものもあります。Scrivenerの自動保存機能とスナップショットがそうです。ソースコード管理のGitなども、コミット(確定の意味)という考え方を導入して、いわばドラフトと完成版の履歴管理を行うものです。
このスナップショット機能というのは、確定したものだけでなく、ここまでちょっと保存していて、とりあえず書き進めてみようといった時に効果を発揮します。わたしのようなアウトライン派ではなく、書きながら構成を考えていくタイプの人間にはありがたい機能なのです。
わたしは最終稿(Wordによる縦書き原稿成形)の前までDraftsで執筆していますが、実はDraftsには”Save Version”機能というのがあって、バージョン管理機能が実装されています。これは重要な変更点を手動で記録するためのスナップショット機能で、まさにScrivenerのスナップショット機能と同等の役割を果たします。
具体的には、編集セッションの終了時や、エディタで別のドラフトを読み込んだ際に、テキストが変更されている場合は自動的にバージョンが作成されます。ユーザーが意識することなく、変更履歴が蓄積されます。リストア機能もあるので、原稿ごと元に戻したいときはこの機能を使えばよいと思います。
しかし、この”Save Version”機能というのは、参照するときにエディタの下部にあるバージョン履歴ボタンを押して小さなウィンドウが開くのですが、これが小さくてちょっと使いづらいのです。また、当該ドラフトの範囲だけでしかスナップショットが表示されません。
わたしは原稿のドラフトを章(話)単位で管理しているので、他のドラフトも跨がってスナップショットを見たいときが多いのです。例えば、第3章を書いているときに第1章のスナップショットを参照したいとか、キャラクター設定の変更履歴を原稿と並べて確認したいといったことがよくあります。
Draftsのアクションという機能を使うと、”Save Version”機能に足りない部分を補足することができます。具体的には「スナップショット」という名前のアクションを作り、次のステップを設定しました。
- iCloudにスナップショット保存
- OneDriveにスナップショット保存
- Draftsにスナップショット保存
冗長性を考慮して、iCloudとOneDriveにその時点の原稿を、” /小説/変更履歴/タイトル” というフォルダに、”タイトル_保存日時.txt”というファイル名でバックアップします。
これだけだと、すぐに過去のスナップショットを見ることができないので、3ステップ目として、Drafts自体にもコピーを作成し、”スナップショット”というタグを付けます。そうしておくことで、いちいちiCloudとOneDriveを見に行かなくてもDrafts上からスナップショットを確認できるようになります。使わなくなったスナップショットはゴミ箱に捨てます(アーカイブすらしません)。
これによって、だいぶ心理的な不安や負荷が軽減されます。もともとDraftsはクラウドサービスですからiCloud上のDrafts専用領域にあるデータベースにテキストは保存されています。そういう意味ではほぼリアルタイムで自動保存ですが、以上のように二重三重に手を打っていくことで、純粋な創作活動に専念することが出来るようになります。