大瀧詠一と封印された記憶

コラム

ここ数日体調がすぐれなかったこともあり、また相方が法事で家にいなかったこともあり、夜寝る前にYouTubeを観ていた。
たまたま、目に付いたのが大瀧詠一の楽曲だった。

ペパーミント・ブルー
君は天然色
A面で恋をして

当時の情景が蘇ってきた。
これらの曲がリリースされたのは1980年代初頭。私が高校生から大学生にあたる時期。

ところが、この曲を学生時代に聞いた覚えがない。
記憶がどんどん溢れてくる。走馬灯のように記憶が蘇る。

高校生から大学生時代の私が夢中になっていたのは、極真空手だった。
高校生の間は寸止めの伝統空手をやっていたのだが、大学から極真を始めた。
遊びも、女も、一切受け付けず、ただ一心に武道に専念していた。

リアルタイムで大瀧詠一を聴いた記憶がないのは、それが理由だ。
では、いつの記憶だったらあるのか。

それは、社会人になってからだ。
私が社会人になったのは、平成元年。1989年のことだから、ずいぶん後になって聴いたことになる。
その頃の私はだいぶ丸くなっていて、恋の一つや二つもしていた。大瀧詠一の曲を聴くまで、すっかり忘れていた記憶だ。

当時の商社はブラック企業だった。定時などあって無いようなもの。毎日午前様で、徹夜も多かった。
「24時間働けますか——」といったコマーシャルフレーズが、リアルで行われていた。

そんな中で、私は一人の女性に一目惚れした。
同じ部署の、年下の先輩社員だった。彼女にはシンガポールに駐在している彼氏がいるという話だった。
私は、本社ビル地下にある銀行のATMの前で、告白した。
断られた。

1年ほど経って、社員旅行の時、状況は変わっていた。彼女は私に好意を持ってくれるようになっていた。職場の雰囲気もなんとなくそれを悟っていて、私たちをくっつけようという空気さえあった。
しかし、私たちが一緒になることは無かった。

何故、そうなったのか、不思議なくらい記憶が無い。
大瀧詠一を聴いて、ついさっきまで覚えていなかった記憶が、驚くほどに蘇ってきたというのに、何故、彼女とうまくいかなかったのかという、記憶が戻ってこない。

何があったのか。何故、記憶は封印されてしまったのか。

人生も謎に満ちている。これはこれで一つのミステリーだ。
私は、この話を小説にしてみようと決めた。

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