昨日は、いま勤めている会社でお世話になった元上司たちと飲みにいきました。新橋から大門に向かう途中にある小さな、小綺麗なお店です。池波正太郎が生きていたら、きっと行くに違いない、そういう趣きがあります。
そこは、店主が元IT業界にいたとのことで、その業界の関係者や重鎮たちも訪れるといういわくつきの場所です。昨日も、3人でカウンターに座っていて、ふと反対側のカウンターを見ると、見覚えのある顔が。外資系、日系を問わずこの業界で活躍された(もちろんいまもされている)方がいらっしゃいました。
わたし以外のふたりは、タイミングを見計らって挨拶に立ちました。ひとりは外資系の社長になったばかりですし、もうひとりはいま勤めている会社を今月で定年退職される役員クラスのひとで、反対側のカウンターに座っている方にはとてもお世話になったとのこと。
わたしはといえば、5年以上前になるでしょうか、初めて福岡で仕事をしていたときに、あるお客様訪問の際、同行してもらいました。彼は当時その会社の役員でしたから、もちろんよく存じ上げていました。
わたしとしては、向こうはこちらのことを知らないだろうと、澄ました顔で酒を飲んでいたのです。帰ってきたふたりからは、挨拶しなくていいの? と聞かれましたが、向こうは重鎮、こちらはヒラのいちエンジニアに過ぎないので、とんでもございません、と苦笑しました。
ところが、先方がお帰りになる際、こちらに近寄ってきて、「なにひとりで静かに隅っこで飲んでんですか」と声をかけてきたのです。びっくりしました。「覚えてらしたんですか?」と聞くと、ニコニコしながら、「福岡で」と。
肩書きがたくさんあるひとです。名刺を何枚も持っていて、そのうちの数枚、社長肩書きのものと業界団体役員肩書きのものをスッと差し出しました。
こちらは、名刺は店に預けた鞄のなかにあって、棚の奥底です。もらうだけもらって、なにも渡せないままに(まぁ、ヒラの肩書きの名刺を渡してもしょうがないのですが)、手を振って彼は去っていきました。
かっけぇ。仕事のできる男ってのはこういうものなのだな、と思いました。一方で、たいした昇進もせず。ノンビリヒラの立場を享受しているわたしとの違いを思い知りました。
こんなマメなことはわたしにはできません。基本的に、わたしは人間関係がわずらわしいのです。できるだけ人との関係は少なく、その代わり濃く持っていたい、というのがわたしの考え方です。
ひとそれぞれ。でもできる男の記憶力を舐めてはいけない、怖い。そう思うと酒も心なしかほろ苦く感じた夜でした。