二拠点生活のススメ − Iターンのリスクと対処方法

コラム

福岡に戻って参りました。萩での生活を惜しむように、ゴールデンウィーク最終日は雨です。最終日1日前に福岡に戻ってきて正解でした。明日から仕事ですが、今日まる1日あると気が楽ですし、身体も楽です。

今回の萩は、初めての長期滞在となりました。たまたまゴールデンウィークと重なったので、休暇みたいになりました。本来は仕事の都合もあって、福岡と山口を行ったり来たりする必要があるために、結果として二拠点生活になったのです。

最初は便利の良い山口か新山口で拠点を探していました。しかし、旅行で訪れた萩に一目惚れして、萩を拠点に選んだのでした。

今回の訪問で、家の中や周りも整理できて、ご近所や自治会の方々ともご挨拶できたので、第2拠点として生活する準備がほぼ完了したと言って良いでしょう。今後仕事のためにひとりで萩を訪れても、問題なく生活できると思います。

萩を第2拠点とするうえで、実は事前にいろいろなリサーチを行いました。その中で、結構UターンやIターン、Jターンといった、生活の拠点を完全に移してしまう方法で萩に来られている方も多いことを知りました。

その形式はさまざまで、都会でサラリーマンをしていた人が農業や漁業を始める、いわゆる就農、就漁を始めるパターン、飲食業やサービス業含めて自分で事業を興すパターン。変わったところでは、IT企業が萩にサポートセンターを設立したことに合わせて、そこに就職したパターンもありました。

いずれの場合も、今までの人生をいったんリセットして、新たな人生を歩むと言えるものです。確かに、萩は魅力的な場所ですが、臆病者のわたしは、そこまですることはできません。わたしにとって萩は、あくまで、いまの仕事を続けることを前提とした、福岡に次ぐふたつめの拠点です。

その意味で、どちらも重要で、どちらが大切というものでもありませんし、お互いが相互補完、それぞれなくてはならないものになると考えています。ここにひとつ、問題解決のヒントがあるのではないかと、最近考えています。

ここで言う問題とは、新しくビジネスを始めることを前提に田舎に移り住んできても、上手くいく可能性は低い、ということです。田舎は、これはわたしの郷里である大分もそうですが、新たにビジネスを創出することは非常に難しい環境にあります。

その理由として、第一に、人口が少ない。第二に高齢化が進み、マーケットが大きくなる余地が少ない。第三に、既存の企業や住人の既得権益が強すぎて、新参者に厳しいことがあげられます。

人口が少ないということは、そこで商品やサービスを消費する人間が少ないことを意味します。つまり、お金を使う人が少ないので、お金の流動性が低いのです。お金の流動性が低いところでは利益は生まれません。

また、人口があっても高齢化しているため、マーケットのホワイトスペースがそもそも少ないです。年寄りは日々の生活を繰り返すことを基本的には望みますので、新しい商品やサービスが普及する余地は少ないのです。

既得権益については、企業だけでなく、個人にもあって、夢と希望を持って田舎に移り住んできて、近隣住民やコミュニティとうまくいかずに、諦めて都会に帰ってしまうという例も少なくありません。自治体が支援してくれる地域であっても、それは建前で、本音では外部因子である余所者を受け付けてくれないのです。

そうなると、田舎でビジネスをやるにあたって期待できるのは、旅行者たちです。とくに海外からのインバウンドは、お金をバンバン落としていくので、経済が回る余地が出てきます。しかし、ここでも注意をしなければならないのは、それが「いつもそういう状態であるとは限らない」ということです。

どの国でもレジャーに適した時期というのはあって、たとえば日本人ならゴールデンウィーク、中国で言えば旧正月、ヨーロッパの人なら夏のバカンス、という風に、彼らがお金を落としてくれる時期は決まっています。年がら年中お金を使ってくれるわけではないのです。

しかも、観光地になるような名の知れた田舎では、多くの参入者がひしめいていますから、競争も厳しいです。自分が始めた喫茶店に観光客が来てくれる保証はありません。さらに言うと、コロナ禍のような想定外の事態に脆弱なビジネス形態と言えます。

そう考えると、Iターンなどのように今までの人生をリセットして全てを新たな地に全振りするような移住は、リスクが高いと言わざるを得ません。では、どうすれば良いのか。

わたしは、その1つの解決策となり得るのが、2拠点(あるいは多拠点)生活なのではないかと考えています。例えば、飲食店であれば、都会でまず拠点を確保し、そこで売上が上がる仕組みをきちんと確立しておく。その上で、旅行シーズンになったら第2拠点である観光地(田舎)に移動して、そこで売上を上げる。シーズンオフになったら、都会に戻る。

あるいは、IT企業に勤めるエンジニアであれば、都会での生活の拠点とIT企業での仕事は維持しながら、リモートワークという仕組みを使って、第2拠点で仕事をする。都会で稼いだお金は、盛大に第2拠点で投下しましょう。経済が回り、地元も潤います。

少々極端な言い方になってしまいますが、都会から逃げるように地方に移住しても、うまくいかないことが多いのではないでしょうか。自分を追い詰めないように逃げ道を残しつつ、バランスを取った生活を送るのが良いのではないかと思います。

2拠点を持つほどお金がない、と言う人もいるかもしれません。しかし、いま、空き家対策に頭を痛めている地方自治体では、びっくりするような値段で空き家が売りに出されていたり、賃貸できたりします。本当に地方で起業するつもりでいるのなら、事業計画と資金計画の中に、その分を組み込んで検討してみてはどうでしょうか。

今回萩で、喫茶店を始めて20年という大先輩に大きなアドバイスとヒントをいただいたと思っています。思い詰めてIターンやUターン、Jターンで一か八かの勝負をするよりも、よほどリスクが低いと思います。逆に言えば、今の生活は、今の生活で大切にしましょう。日々のコツコツとした誠実な積み重ねこそが大事で、それがあってはじめて、新天地での生活も意味のあるものになるのではないでしょうか。

ちょっと論点がずれますが、これは転職の例と似ているかもしれません。いまの仕事、いまの会社で誠実に仕事をして人間関係を作っていれば、必ず良い転職ができます。今の会社に対して後ろ脚で砂をかけるような真似をして転職しても、次の職場でも同じようなことになります。うまくいきません。

また、以前小説教室の先生から、プロデビューしても今の仕事は辞めるべきではない、というアドバイスをいただいたことも思い出します。プロになることはスタート地点に立つことを意味するに過ぎません。そのあと売れっ子になれる保証なんてないのです。先生は、専業作家になる前に、兼業作家を続けるべきと仰っていました。2拠点生活を送ることの大切さは、こういったこととも共通点があるかもしれませんね。

このゴールデンウィークの萩での生活で、そんなことを考えました。そこでの生活での質を上げたいからこそ、いまここでの生活の質をきちんと上げておく。やるべきことをやっておく。それが何より大事なことなのではないかと思います。

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