昨日は、お客様先で製品のデモを行いました。同行した営業は、こちらが口出しする必要もないほど完璧な進行を見せてくれました。準備ができている人間と仕事をすると、こんなにもストレスがないものかと、あらためて感心しました。
なぜ彼が「できる営業」なのか。それは、契約締結までのシナリオをあらかじめ描いているからです。しかもそのシナリオは一方的なものではなく、お客様の業界、社内の意思決定プロセス、業務の現場、抱える課題、さらには個々の担当者の性格まで踏まえた、まさに「カスタマイズされた筋書き」です。
当然、準備に手を抜きません。調査に調査を重ね、提案骨子を固め、価値訴求ポイントを明確にしたうえで、デモの設計を行う。だからこそ、お客様の質問や懸念(オブジェクション)も想定済みで、当日のプレゼンも実にスムーズです。
一方で、「できない営業」と同行するときは、まるで別世界。準備がない、構成がない、シナリオもなく、行き当たりばったり。資料は粗く、デモも方向性が見えない。結果、商談の進め方から資料の作り方まで、すべてこちらが面倒を見なければならず、大きなストレスになります。
――この経験を通して、ふと思いました。これは小説を書く過程とまったく同じではないか、と。
良い物語を書くには、まず素材を調査し、テーマを深掘りし、想定読者を理解する必要があります。読者がどんな疑問や関心を持つかを想像し、それに応える構成を練り上げていく。つまり、物語にも「シナリオ」が必要なのです。
プロットを描くという行為は、営業における提案骨子の設計とよく似ています。物語における「デモ」とは、読者が最も心を動かすシーンであり、そこに至るまでの伏線や展開も含めて、すべてが計算されていなければなりません。
もちろん、即興的に書き始めて筆の流れに任せる作家もいます。けれど、わたしのような凡人にとっては、物語もまたビジネスと同様、地道な準備と論理に支えられた設計が不可欠なのだと、あらためて思い知らされました。
物語の成功も、営業の成功も、「どれだけ相手を理解し、準備できているか」で決まる――そんな当たり前のことを、昨日の商談を通して再確認した一日でした。
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